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間抜けな自然科学批判 その3

「バーチャルウォーター」という概念を詐術だとし、紹介者までもペテン師呼ばわりするzombiepart6さんについて、無知を自覚せずに的外れな批判をしているという事実を明らかにしてみよう。

その「間抜けな自然科学批判」が展開されている記事の中で、私がもっとも衝撃を受けたのは以下の記述だ。

改めて言うのもアホらしい事なんだが・・・この「バーチャルウォーター」という概念の問題点は、地球上の水が蒸発と降雨というサイクルで循環しているという自然界の根本的な営為を、テンから無視しているという事だ。循環しているモノの、一つのポイントを通過する量を累積して・・・そんな数字に、一体何の意味がある?



「一つのポイントを通過する量」を表す概念なのだから、そこにグローバルな循環を規定するような要素が含まれないのは当たり前だ。それを「テンから無視」しているとして非難するというのは、「一体何の意味がある?」とご本人が書いているように、「一つのポイントを通過する量」を考えることの意義を解っていないということ。そして、地球の水資源評価とその変化の将来予測において、「一つのポイントを通過する量」と「循環」とにどんな関係があるかについてもおそらく知らないのだろう。よくもまあ、こんな恥ずかしい批判を堂々とWeb上に載せるよなぁ、と呆れてしまう。

この次にある記述も無知を露呈している。

要するに、人が吐き出した二酸化炭素で植物が光合成をして酸素を作り出しているというファクターを無視して、人の呼吸を一方的な「酸素の消費」と位置付けて、その前提で人の呼吸による酸素消費に警鐘を鳴らすというのと同レベルの、無法な戯言に過ぎんのね。



これは色んな意味で不適切な譬えだ。まず、「一つのポイントを通過する量」として「呼吸」を引き合いにだすのはいいが、上で述べたのと同様に「呼吸」という概念が植物による酸素放出と関係したファクターを含むわけがない。人の呼吸を一方的な「酸素の消費」と位置づけてしまう考えについては、概念を正しく理解せずに使用するという拡大解釈の問題なのであって、決して概念自体が孕む問題ではない。「呼吸」が人間の健康や生理状態を把握する上で重要な概念であるのと同様、「バーチャルウォーター」の概念も水需給や水利問題をローカルなレベルで考えるときに役立つと考えられており、そこを批判しなければなんの意味もない。

他に不適切であることの理由として、グローバルな水循環と「バーチャルウォーター」の関係を、植物による光合成と人間の「呼吸」の関係に喩えていることが挙げられる。人間の呼吸が一方的な「酸素消費」とならないのは、植物が酸素を消費放出しているからというよりは、大気中の酸素量が莫大であるからといった方が正確である。人間活動による二酸化炭素の放出は現在の大気二酸化炭素濃度(約370ppm)を年間数ppm程度上昇させているといわれている。それに伴って消費されている酸素が同程度だとして、大気の酸素濃度にどのくらい影響があるだろうか?大まかにみると、空気の20%が酸素だから換算すると20,000ppm200,000ppmだから、その内数ppm減ってもほとんど影響がない。ここで人間活動といったのは、あらゆる産業を含めてのものだから、人間の呼吸による影響でいえばさらに小さい事は容易に想像できるだろう。

下線部は誤りです。詳しくは「Tamanegiさんへの返答 その2」を参照願います。

(余談)
大気中の酸素は光合成からしか供給されないわけではない。大気上層において水が光化学反応によって分解し、生成物として酸素が発生するということも知られている。この過程によって生成した酸素の大部分は水素と反応して再び水になるので、正味の酸素供給量は随分と少なくなるが、人の呼吸分に匹敵するのかどうか?これは計算しないと分からない。ところで、現在の大気中酸素濃度が20%にまで達しているのは、27億年前に活発化したシアノバクテリアの光合成によるものといわれている。関連して「ストロマトライト」や「縞状鉄鉱床」で検索してみると面白い。


では、「バーチャルウォーター」で表されるローカルな水投入量は、地球の水循環にどれくらい影響を与えているだろうか?

どんな水文学、水利工学の教科書においても冒頭で書かれていることであるが、地球の水循環の原動力は太陽の放射エネルギーである。沖教授の研究室(東京大学生産記述研究所、沖・鼎研究室)のHPにある「地球水循環の概念図」を見ると、大まかな水循環の様子がわかる。「地球環境水文学(丸山利輔、三野徹 編)」によると、総量13.5億km3あるといわれる地球の水の97.5%は海水であり、残りの2.5%が淡水である。その内、68.7%は氷山や氷冠などの永久凍土層に存在する。さらにその残りの80%は地下水なので、簡単に利用できる水(湖沼、河川、土壌、大気)は非常に限られている。この限られた淡水資源は太陽エネルギーを動力源とした循環がなければ得ることができない。

人間活動を支える水理をローカルに捉えるとき、流域(ある河川に降水が流れ込む範囲)ごとに水の動きを把握する必要がある。実際、インフラの整備など水管理は流域ごとに計画が立てられ、実行される。水文学に触れたことのある人なら誰でも聞いたことがある用語だと思うが、集水域への降雨量を流域流出量へ変換する手法として「流出解析」というものがある。長年、水文学者が流出解析のためのモデルの考案・改良を行ってきており(単純なものではタンクモデルが有名)、取水量のコントロールや洪水対策において貢献している。その歴史をざっとみただけでも、ローカルな水の動き(一つのポイントを通過する量)を把握することがいかに大切かと言うことがわかる。

そして結局、グローバルな水の循環を考えるためには流域ごとのデータ、つまり流出解析の結果を統合する必要があり、「一つのポイントを通過する量」が無意味であるなどとは、少しでも水文学に触れたことのある人ならば、絶対に言えない。近年は計算機の性能向上により、それぞれの流域に対応した流出解析において土地利用変化や気候変動の影響をより高精度に評価できるようになってきている。人口増加に伴って農業用水需要が増加した場合の取水量変化が流域の水管理、延いてはグローバルな水循環にどのような影響をもたらすのか、多くの研究者が興味を持っているところである。

流域でどれくらい水が不足しているかを表す「水ストレス」の簡便な指標として、取水量/水資源量で算出される値(以下、取水水資源比という)がよく用いられる。先に世界全体での平均を見ておくと、水資源量(淡水として汲み上げることのできる河川水)は40,000km3 yr-1で、年間総取水量は3,788km3 yr-1となっているそうだ。世界平均でみると、取水水資源比は約0.1(10%)ということになる。因みに、水資源量との比ではなく、降水量との比で表すと約4%である。

従って、取水がグローバルな水循環に与える影響は、人間の呼吸が大気中の酸素濃度(交換)に与える影響に比べるとかなり大きいことがわかる。

そして忘れてはならないのが、「一つのポイントを通過する量」を考えることの意義は全体の循環に対してどの程度影響するかということだけでは決まらないということだ。流域で暮らす人々の生活環境を考える上で、取水水資源比などの指標を通じて「一つのポイントを通過する量」を数値化することはとても重要なことである。取水量のうち、農業用水として使用される割合は約70%といわれており、食糧生産に必要な水の量を水消費原単位を元に算出することは、将来の水管理計画を策定する上で必須の作業といえる。その関連で、バーチャルウォーターという国家間での食糧移動の影響を踏まえた概念が提出されたということだろう。

水資源量や取水量には空間的遍在性があるので、流域ごとの取水水資源比における地域間の差は非常に大きい。一般的に、取水水資源比が0.4を超えると水ストレスが大きいといわれている。
次のエントリでは、この水ストレスに関連した話など、流域レベルでの水管理について調べた事をかいてみようと思う(予定)。

※平成16年度~平成17年度科研費(基盤B)
「十年にわたる全球陸面エネルギー水収支データセットの構築とその検証解析」の研究成果報告書を参考にした(孫引きあり、ごめんなさい)

[注]文中の赤字は2009.1.27に訂正した個所
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水文学のこと

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Secre

unep.org

はじめて(?)投稿いたします。
zombieさんやこちらさまに記述のあります沖教授を実は存じ上げておりませんほどの南方ボケの浦島タロサで恐縮します。
私は国際連合環境計画の中のデータを素人なりに『ほほー』とか言いながら、参考にしています。
http://www.unep.org/dewa/assessments/ecosystems/water/vitalwater/index.htm

バーチャルウォーターではなく、バイタルウォーターというトピックですが、いろいろなグラフもありまして喜んでみています。

淡水が水全体の2.5%のみ。そして2.5%を100とすると、その内の68.7が氷河、地下水が30.1。地表と大気の水がたった0.4%のみ。温暖化で氷河がドンドンとへっていますから、2.5%も減っているということだと思います。
次のエントリーをお待ちしています。拝

東南さん

はじめまして。書き込みありがとうございます。

いろんなところでお見かけしています。特にYahooブログの訪問者履歴で(笑)ネタ探しですか?貴ブログでは、ブロガー新党関係の絡みの記事を楽しく読ませていただきました。これからも期待してチェックします。もちろん、他の話題(紅い海シリーズなど)についても興味深く拝見させていただいています。

ご紹介頂いたページ、初めて知りました。面白いですね。一連のエントリにおいてはこちらの図を使った方が解りやすかったですね。。。何ヶ所かで名前が出ているShiklomanovという人は世界的に有名なロシアの水文学者のようです。

実は、私は植物生理学に近い分野にいるので、植物個体内の水移動に関してはある程度知識があるのですが、グローバルな水循環に関しては、にわか知識で対応しているというのが実状です。本当は、モデルによるシミュレーションとかはあまり好きではないです。モデル式のパラメータ決定の仕方などにはかなり違和感を持ちます。

しかし、水文学者に見つかったら、笑われるかもしれません。不安です。





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