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間抜けな自然科学批判 その2

一個前のエントリで「バーチャルウォーター」という概念を厳密に定義すること、つまり現実水と仮想水を区別して考えることの意義は水消費原単位という値と関係していると書いた。これについて詳しく説明する。

水消費原単位とは食糧1tを生産するのに投入される水の量を示す値だ。例えば、米の生産に関しては次のようになる。

水田で稲が生育するのには約100日かかる。目安として、水稲が蒸散して消費する分のみならず、浸透したり水面から蒸発したり下流へ流去する分も含めて1日に15mm分の水(この15mmという値は減水深と呼ばれる)が必要とされるので、100日で1ha当たり15,000m3の水が必要であることになる。1haの水田から日本では約6.5tの米がとれるので、米1t当たり約2,300m3の水が必要であったことになる。精米後には米の重さは稲刈り時の約65%になるとして白米当たりに換算すると、米1t当たり約3,600m3もの水が必要だ、ということになる。この3,600倍という値を米の「水消費原単位」と呼ぶことにしよう。

鈴木基之, 沖大幹(2007)水管理(4)地球規模の水資源(環境工学改訂版. 放送大学大学院教材)p158より引用

文中に「1haの水田から日本では約6.5tの米がとれる」と書いてあるように、水消費原単位は作物種だけではなく、その土地における生産性(単位面積あたりの収量)によっても規定される。生産性は土地の肥沃土や気候の影響を受け、また生産方式によっても異なる。小麦やとうもろこしについて、大規模農業をやっている欧米に比べると、日本の方が水消費原単位が多くなっている。

このように、土地によって水消費原単位が異なるために、「バーチャルウォーター」を厳密に定義する意味がでてくる。現実水と仮想水は水消費原単位から導かれ、単純に以下の式で表される。

現実水 = 輸出量 / 輸出国での水消費原単位
仮想水 = 輸入量 / 輸入国での水消費原単位


通常は、生産性の低い国が生産性の高い国から輸入するわけだから、輸出国の方が水消費原単位が少ない。よって、多くの場合

現実水 < 仮想水

となるわけだ。

これはどういうことかといえば、より生産性の高いところで生育させることによって投入する水量を減らすことにつながることを意味している。このことは水消費原単位などという数字を持ち出さなくても感覚でわかる程度の当たり前のことだけれど、とにかく地球レベルで考えれば、少ない水投入量でより多くの食糧生産が可能な場所で農業をやることが水の節約になるということが分かる。

このことは、沖教授が先程のページに書いていることだが、同時に次のように注意を喚起している。

ただし、こうした投入水量を用いた議論は、水という観点のみから 食糧問題を論じた場合の話であり、 地域のコミュニティや歴史的経緯等、 virtual waterのみでは考慮されない視点に対しても気を配る必要が あると考えられます。


そして、日本の仮想水についてだが、沖教授は次のように述べている。
http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/Info/Press200207/#new

また、日本が世界のどの国や地域の仮想水に頼っている国家であるかを、 輸出入統計に基づいて示した点に大きな意義があります。 もちろん、日本の場合には、 水資源の不足を仮想投入水の輸入で補っているというよりは、 土地不足、特に牛肉生産のための土地の不足を輸入によってまかない、 それに伴ってvirtual waterが大量に輸入されていると考えた方が 本質を外していないでしょう。

また、生活をvirtual waterの輸入に頼っている日本は、 その恩恵を世界へ還元することを考えることも必要でしょう。 それには、例えば水資源開発など、利用可能な水を増やすODAを行うことが考えられ、 ある意味ではそれは輸入超過しているvirtual waterを、 まさに世界に還元していることになる、とも言えます。 そうした援助や投資を考える際には、 今回の研究成果が貴重な基礎資料となると考えられます。



我が国で水資源が不足しているわけではないが、食糧の輸入に伴って、他国にある生産地の水利用量に影響しているのは確かである。では、輸入物の対価を支払えば、現地の水資源に配慮する必要はないのだろうか?生産地において水が潤沢にあり、持続可能な農業が営まれているのなら問題はないが、そうではない場合において無視できないのは自明だ。水が枯渇してから対応したのでは遅いのである。自分たちのためにも、生産地における水資源の需給量に関心を払い、モニタリングしたり、技術協力を申し出たりすることはとても重要だ。

で、zombiepart6さんはどういう見方をしているかというと、こんな感じ。

現在、結構な数の反日エコ屋がこの概念を使って、「食糧輸入国というのは食料輸出国の水資源を大量輸入しているのと同じだ」という屁理屈で、「食料輸入大国」である日本に世界の水不足の責任をおっかぶせようとしている。「牛一頭を育てるのに必要な牧草を育てるのには何千トンもの水が必要なのだから、牛肉を輸入するという事は何千トンもの水を輸入しているのと同じだ」なんて愚かな屁理屈を垂れ流している訳ね。・・・最早、危地害と言う他は無い。



なんてへその曲がった見方だろうと驚いてしまうが、とりあえず反日エコ屋なるもの達が日本に世界の水不足の責任をおっかぶせようとしているという情報のソースを明らかにして欲しい。仮想水の厳密な定義を無視するだけではなく、考え方の背景にあるものを屁理屈と決めつけ「危地害」とする感覚ってどこからくるのか不思議だ。

これより後の記述や、コメント欄をみると想像が付くのだが、この御仁は科学的知識に乏しい上に、思考も科学的ではないのだろうと思う。そのことを次以降のエントリで書いてみたい。



おまけ

上で引用元として記載した書籍「環境工学」のp164に「バーチャルウォーター貿易という概念の功罪」という見出しを発見した。一部を抜粋する。

バーチャルウォーター貿易に関する研究自体には特定の価値や意図はなく、各国や地域の水資源需給を考えるにあたり、一人当たりの水資源量やそれに対する水資源取水量といった外形的な数値から水の逼迫度、水ストレスをより現実的に推定する場合に役立つのが本来の概念の利用法である。



最初の一文がなんだか言い訳がましい気もするが、zombiepart6さんのような人から、プロパガンダ的要素があるとして批判されたことがあるのかもしれない。

将来の人口、その何十億という人々がどういう食べ物を食べ、それを清算〔ママ〕するのにどれだけの耕地と水が必要であるか、を推計する際にはバーチャルウォーター貿易の算定に出てくる水消費原単位が必須となり、また、各国や地域で食糧需給が満たされずとも、食糧交易によって融通することはもちろん可能で、水が食糧生産の制限要因になっているような地域の将来展望を計画する際にはバーチャルウォーター貿易の考慮も役立つ。



これをみると、というか個人的には、「バーチャルウォーター」よりも「水消費原単位」の方がよっぽど重要であるように思える・・・。

輸入国でもし生産するならどのくらいの水資源が必要になるか、という正しい解釈でなく生産にどのくらい水資源が使われたか、といった多少ぶれた解釈であっても、世界の水問題が新聞に載ったりテレビで聞いたりしたときに、つい飲み水や水道の水が足りなくなることしか思い浮かばないところ、水の問題が実は食料を輸入することもできない貧しい国がある、ということへ思いを馳せるきっかけをバーチャルウォーター貿易はあたえてくれるのである。



科学者でありながら、テレビを通してぶれた解釈が拡散することにあまり抵抗がなさそうなところが不安を煽るのだが、まあいいや。

実際に、「バーチャルウォーター」でブログ検索すると、食糧問題と水資源の関係に注意が向くようになったという人が少なからずいるようだ。「日本の食料輸入によって他国の水資源が・・」のような論調が多い中で冷静な意見のものもわずかだがあった。例えば、ここ→http://yy10000.iza.ne.jp/blog/entry/591439

で、功罪の「罪」の部分について、再び「環境工学」から引用

逆にバーチャルウォーター貿易は水の量しか考えていない点には注意が必要である。つまり、他の制限要因があれば、バーチャルウォーター輸入によって他に利用可能な水資源が増えるわけではない、ということである。また、食料生産には単に食料を供給するだけではなく、地域のコミュニティーを支えるといった役割もあり、水生産効率にかかわる比較優位の法則に従ってバーチャルウォーター貿易がなされることが、グローバルに水資源を節約できそうだからといって、それを推進するのは危険であろう。


食料を輸入することによって、国内での水資源の使用を抑えることができるということを、仮想的とはいっても「輸入」と表現してしまうと、誤解を生じてしまうという危惧はある。ただ、反日プロパガンダに利用されるかと言えば、それはないでしょう。少なくとも、今はない。
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